時の流れ(元号)

東京タワーの明かりが消えた。バブルの象徴だった六本木の街が静寂に包まれた。銀座のショーウインドーには白菊や黒いリボン。午前零時、皇居前広場では暗闇のなかで数百人がただ手を合わせて「昭和」を見送った。30年前の、平成が始まる時の東京風景である。

昭和天皇の逝去から18時間後の改元だ。当時の新聞を読み返すと、世の中はあの夜、今では想像しがたいほどの自粛ムードだったことを思いだす。テレビは追悼番組を流し続け、土曜日なのに盛り場は閑散として新しい時代を迎えた。さて、時は流れて「平成→令和」。前回とは正反対の改元フィーバーが列島を覆う。

官房長官が新元号の額を掲げた直後から令和あやかり商品は続々登場し、5月1日の「令和婚」カップルの婚姻届を受理するのに役所は特別態勢だった。

行き過ぎた自粛や沈痛な空気の伴わぬ、こういう明るい改元が実現するとはかって誰が考えただろう。諒闇の静けさが社会のすみずみに広がり、カウントダウンはおろか、歓声をあげるのも憚られた「昭和→平成」の節目とはことごとく違うのである。もちろん、もっと昔とも違う。走り出すと一色になる国民性を除いて。