勇気の一歩

NHKの朝ドラは今回で100作目。物語は北海道・十勝地方への開拓移住者の家族を中心に描かれている。

この十勝の開拓に挑んだ先駆者に依田勉三がいる。今でこそ日本有数の畑作・酪農地帯だが、元は荒漠とした原野。冷害や害虫被害で、開墾は困難を極めた。「ここは条件が悪すぎると思う。これでは、先の見込みが立たない」と、移住者が勉三に不満をぶつけた。

だが彼は少しも揺るがなかった。「そんなことは最初から承知の上だ。悪条件ばかりの土地を開くから開拓というのだろう。段取りが整っていれば開拓ではない」

勉三が悪戦苦闘していた同じ頃、東京の大森から、北海道の開拓事業に挑んだ青年がいる。彼が道東・白糠町(しらぬかちょう)あたりの原野を畑地するための出願をしたのは、ちょうど100年前の1919(大正8年)。青年とは先生の父である。

父が語った若き日の開拓の話を、先生は「開拓魂を燃やした爽快な思い出だったのであろう」と述懐した。先駆者には、岩に爪を立てるような苦闘があると同時に、先駆者でなければ味わえない深い喜びもある。勇気の一歩は、大地を埋め尽くす豊かな作物のように、必ず実を結ぶ。